そうだね、ただ単純にうちが医者だったからかな。
でも小さい頃はパイロットになりたかったんだよね。目が悪くって断念したけど。そうそう、僕は大学に入るまでに京都で一浪しているんだ。今から24･25年前になるかな。
下宿先の近くに古本屋があってね、そこで買った一冊の本、『赤ひげ』が僕の人生を決めたんだ。日本ってお涙頂戴系がウケル風潮があるじゃない、でもこの本は全然違ったんだよ。主人公の新出去生は、全然情緒的なんかじゃないんだ。理路整然とだたひたすらもくもくと仕事をこなすんだよ。そんな彼がたまにみせるやさしさがたまらなくてね、僕はすっかり心を奪われちゃったってワケ。
さらにね、『赤ひげ』に出てくる保本登っていう若い青年が僕とだぶったんだよ。自分の全人生を医者という仕事にかける、そんな彼の生き様に魅せられて、僕は医者になろうと決めたんだ。

つまりね、当時20円だったたった1冊の本で僕は人生を決めたんだよ。単純なものさ！で、そろそろ京都も飽きてきたから東京に出て来たってわけ。

一言で言えば、ヨットざんまいだったね。女気なんてまったくなし。もともと慈恵医大は野郎ばっかり。勉強なんて試験前2ヶ月だけだね、やったのなんて。
といっても、1ヶ月はノートとかの資料集めだったけど。そうそう、当時コピ−なんてなかたから。ひたすらガリ版さ(笑)。
しかも、ヨットを体育会系でバリバリやっていたからね。そうだね、1年間のうちの60〜70日くらいは合宿で葉山にこもりっきりだったね。医学部の大会なんてのに出たりしていたね。

大学4年の時の大会で、個人の部で銅メダルとったときは本当にうれしかったなあ。当時部員が少なくなったりしていた時だったからなお更ね。僕は勉強はしなかったけど、ヨットを通 して“組織のあり方というものを学んだよ。
医学部に入るまでって、ある意味猛烈な競争社会だったから ヨット部に入ってそれまでの考え方とか修正された気がする。

慈恵医大の創設者である高木兼寛が“病気を診ずして病人をみよ”って言葉を残しているけど、僕が大学6年間で学んだことはコレに集約されるかな。

一言でいうとね、脳外科の試験の点数が一番悪かったからかな。 そうだね、うちの親父は精神科なのね。（僕は無意識のうちに親父を意識していたんだけど）器質がわからないと精神なんて語れない、そう思ったんだ。
あとね、外科の臨床実験の時にね、2回も気持ち悪くなって倒れちゃったんだよ。
それで、このままだと外科に対してコンプレックス残るだろうから、外科に行こうって決めたんだよね。
それから当時テレビでやっていたベン・ケー･シーっていう脳外科医が主人公のドラマ。これが決め手になったね。

そうだね(笑)
僕は20円の本で医者になることを決めて、ひとつのテレビ番組で脳外科を選んだんだよ。でもね、人生に偶然なんてないって思うんだ。
僕はおぎゃーと生まれたときから、医者になるって決まってたんだよ。