エレガントなエゴイストたち

2002

ワールドカップはブラジルの勝利に終わった。俄かサッカーファンの僕も十二分に楽しんだ一ヶ月であった。

かのフィリップ・トルシエは日本代表の監督に就任するに当たって、かくのごとき言葉を述べたという。

「得点を叩き出すためにエゴイストになれ。ただし、日本人としてのエレガントさを忘れてはならない」

ワールドカップは勝ち負けというものがはっきりとしている。オリンピックにも当然勝ち負けはあるが、サッカーに比べればその比重は軽く、根底には参加することへの意義が残っている。

然るに、ワールドカップにおいては勝者と敗者の歴然たる違いがある。引き分けがあるのは予選リーグだけであり、決勝トーナメントでは勝者を決定するために、ＰＫ戦まで行う。それでも決定できなければ抽選まで行う。

勝者となるためには、そこに一遍の情けも無用だ。敵をすり抜けてゴールへと進むには、極端なエゴイストが求められる。戦後五十数年の教育はエゴイストを排除する方向を持った。みんなで手をつないでゴールすることを強要した。トルシエはその点を指摘した。いわば、サッカーに限らずわが国全体に蔓延する病巣に処方箋を与えたのだ。

元来、わが国は集団生活を楚とし、突出する才能は意識的に排除される傾向があった。出る釘は打たれる。エレガントとは奥ゆかしさに置き換えられ理解されてきた。

ところが、いまやグローバリゼーションの波はサッカーだけでなく、社会の隅々まで浸透してきた。奥ゆかしさだけではどうしようもない時代となってきた。

その点で、今回の日本チームの健闘は見事にエレガントなエゴイストという矛盾する事柄に調和をかもし出していた。トルコ戦に負けた彼らは、決して満足した涙を流したわけではあるまい。

テレビの解説者が、「よくやった」と叫んでいたが、当の本人たちは悔しさだけであったろう。

ここに、エレガントさとエゴイスティックの融合がある。同じゴールに向かった仲間のみが共有できるエレガントさがある。大げさな表現をとれば、欧米の個人主義と日本固有の集団主義との統合ともいえよう。

それにしても、わが国には醜悪な個人主義に走った輩が多いのだろうか。ロシアとの権益に走った政治家、秘書給与疑惑を煙に巻き続ける政治家、コンピューターの故障の責任を取らない銀行家、カルテを改ざした医者。エレガントには程遠い。

エゴイストはしばしば利己主義と混同される。ここで我々はエゴイストという言葉を見直さねばならない。エゴイストにも二種類あり、自分の利益だけを追求するものと、他者の利益までも考えるものとに分かれるのだ。

利己主義に走ったエゴイストは醜悪であり、利他主義に走ったエゴイストはエレガントといえよう。

日本人は同じ表情をしているといわれ続けてきた。その常識を打ち破った若き戦士たち、彼らは個人主義むき出しで、しかも美しい。それを様々な方法で応援したサポーター達。ここに、日本株式会社に対する決別を見る目もある。

時代はエレガントに変化しているのだ。